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動物生態学の ”生活史理論(Life History Theory)”とは?

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* 生活史理論(life history theory)について

 

「 生活史理論は生物における生存と繁殖のスケジュールを進化的適応との関連で説明するものである。生物もまたエネルギー保存の物理法則に従うかぎり、生活史のある面にエネルギーを配分すれば、その分だけ他の面にはエネルギーを使えないことになる(例えば、誕生後、急速に成長して大人になり、大きな子供を数多く産み、寿命も長いというような生物はありえない)。

 

──したがって、大人になるまでの時間や大人の身体サイズ、一度に生まれる子の数や誕生時の身体の大きさ、養育にかかるコスト、繁殖サイクルや生涯産子数などの「生活史パラメータ」の間には、様々なトレードオフ関係が存在する。

 

例えば、大人の身体のサイズは成熟に達するまでの時間に比例し、生涯の産子数に反比例する。これは身体サイズと産子数とのトレードオフ関係である。

 

もし点滴の存在などによって生存率の上昇が見込めるならば、できるだけたくさんの子を産み、早く成熟に達することが適応度を上昇させる戦略となり、

 

逆に加齢に伴う死亡率の上昇を抑制できる環境ならば、成熟に達するまでの時間を犠牲にして、長い時間を掛けて身体サイズを増加させることによって生存率を上昇させる戦略が成り立つ。

 

このように、生物の成長、繁殖、寿命のスケジュールは、生活史パラメータのトレードオフ関係のなかで、環境適応の結果として形成される(Charnov 1993)」

 

──『身体と生存の文化生態』池口明子

 

 

 

 

よれば、ヒトの生活史の特徴として、以下のようなものがあげられる。

 

 

 

・大人への依存度が高い長期にわたる子供期の存在

──ほとんどの霊長類は離乳すると同時にみずから採食活動を開始するが、ヒトの子供は離乳後も大人に依存しつづける。(また、チンパンジーは離乳までの期間が5年あり、ヒトのそれよりもはるかに長い。子供が大人に依存する期間が長いのはヒトと共通している)

 

 

 

・出産可能年齢をはるかに超えた女性の長寿命

──「おばあちゃん仮説」:出産と子育てを終えた女性が孫の世話に重要な役割を果たすことによって、子孫の適応度を上昇させる(Hawkes 1997, Blurton Jones 1992)

 

 

 

・雑食性ではあるが、大型の動物や根茎類(イモ)など、よりカロリーが高く、より大型の食物への依存度が高い

──これらの動植物の獲得には、複雑な時空間認知能力や、道具の使用など技術の獲得、社会的組織の構築が不可欠

 

 

・子どもは「よく遊び、よく学ぶ」

──狩猟採集民の食糧獲得には高いレベルの知識と技術の獲得、またコミュニケーション力や社会的交渉力を発達させることが必須だが、子どもは前者は学習によって、後者は遊びによって身につける。このような期間の存在は子、そして親の遺伝的適応度を上昇させることに役立つ。

 

 

 

・特定の男女が夫婦という単位を築き、共同生活を持続させること

──ヒト男女間の強い結びつき:“ペア=ボンド”は、男性の至近の生殖戦略(配偶相手に自らの子を確実に産ませることで適応度を上げる)と、女性の至近の生殖戦略(配偶相手に母子の扶養&保護、育児協力を求めることで適応度を上げる)の折衝、また、男女のマクロな遺伝子戦略のコンフリクト(“男性は数を/女性は質を”)など、様々な力学系がバランスした結果として成り立っているESS(=進化的に安定した戦略)か。*

 

*なお、少数の「精子だけをバラまく男」という要素をここに混合することでヒトの生殖戦略(“進化ゲーム”)は進化的安定性を高める。

 

 

 

 

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キャプテンらによる狩猟採集民の男女の食料獲得と消費量の年齢推移。

男は20歳ごろに食料獲得量が消費量をやっと上回り、その後は飛躍的に獲得量を伸ばして30歳ごろにピークに達し、60歳ごろまで食料獲得量が消費量を上回りつづける。一方、女は閉経を迎える45歳ごろに至るまで食料獲得量が消費量を上回ることはない。大人の男と高齢の女が出産期の女や子どもの食糧調達を担っていることが読み取れる。